2011年7月20日水曜日

北極で温かく暮らして幸福になる方法。【Part 2】 /長期継続利益を獲得する方法。

北極で温かく暮らして幸福になる方法。【Part 2】
つまり長期継続利益を獲得する方法。

■売っているものは何

エアコンが欲しいと思っている人は、エアコンが欲しいのだろうか?エアコンが欲しい人は、エアコンが欲しいわけではなく快適に過ごせる空間が欲しいのだ。だから売るのは、快適に過ごしたい感情を満たすことだ。物そのものに価値があるのではなく、「誰が何をしたいのか」に価値が潜んでいる。それを発見して適切にコミュニケートしないと売れるものでも売れない。

東日本震災報道でも分るように、ガソリンを求めている人はガソリンが欲しいわけでなく移動手段として車を動かすガソリンを求めている。しかしそれだって本心ではなく、行方不明になった家族を見つけたいが本心だったりする。悲惨な状態を映し出した報道を見ていると、ガソリンを入れたら、任務終了ではないことが分る。

商品を求める本心に触れたときに顧客も売り手も商品以上の価値を感じる。お値段以上の価値とは、本心にそっといたわりを持って触れる以外にはない。世界一企業のひとつIKEA(1943年創業)と「お、ねだん以上。ニトリ」をCMのキャッチコピーにしている「ニトリ」(1967年創業)は競合する。ニトリがIKEAを参考にしたこともあって共に家具屋ではなく「ホームファニシング」と位置づけている。さらに掘り下げると両者は似ても似つかないものだと分る。

IKEAには物を売るだけでない何があり、それを探していると「家族が楽しみながら人生の夢を叶える」という思想に突き当たる。これについて、IKEAのどこを探しても、どこにも説明したものはないが、店舗では具現化されていて、顧客は空気と体験を通して「違う何か」として感じている。つまり外から見えにくい容易に真似の出来ないサービスの存在に気づく。

アメリカでの開店時に生じた失敗を教訓にして現在IKEAは国によってオペレーションの違いがあるが、スウェーデンではIKEAファミリーカードを見せるとガソリンが安く買えるサービスもある。これなど簡単に真似のできるサービスだ。ほとんどはこのような外から見えるサービスに関心をよせるが、見えないサービス力には関心をよせない傾向がある。

■見えるもの、見えないもの、

人間が行っているビジネスは、人間のしていることなので、人間そのものによく似ている。人間には、内側の力と外側の力がある。内側は人間力と呼ばれるものだ。外側の力とは、肩書き、資格、専門スキルなど、他者が評価しやすい力だ。立派な肩書きがあっても、退職すればたたのおじさんというように、外側の力の特長は時と場所で範囲限定的だ。一方、内側の力は他者の目に触れにくい力、評価が難しい力だが、世界中で使えて生涯役にたつ。

ほとんどの人は分りにくい内側の力を評価対象から外してしまう傾向がある。ビジネスに於いても同じ現象がある。販促は外から見える現象だ。しかし販促や日々のオペレーションを実現する力は、短時間では養えず長年の蓄積によるもので、人間の内側の力に似ている。私たちが競争優位のポジションを獲得する上で、決め手となるのは、この内側の力だ。内側の力を具現化するためのツールが、スローガンと間違われやすく、雑に扱われやすい「コンセプト」だ。

■スターバックス

さて、見えないものを束ねて”明確な違い”にしている「コンセプト」の威力を知る実例だ。スターバックスが開業したのは1971年のこと。イチロー選手が在籍するマリナーズの本拠地シアトルで始まった。紆余曲折があり、スターバックスが現在の形になったのは1987年のこと。イタリアで定番のエスプレッソを主体としたドリンク類の歩き飲みを前面に押し出した「シアトルスタイル」を導入したことで、カフェブームが起こり瞬く間に全米に広がった。日本に上陸したのは、約10年遅れて1996年、サザビーとの提携で実現した。サザビーは以前からカフェも展開していて、店舗の運営スタイルからして共感することが多かったはず。

スターバックスのコンセプトは、有名な「第三の部屋」。・・・家庭、会社、に続く第三の部屋の意味は、会社と家庭の間にある自分の時間を過ごす空間ということだ。実際に売っているのはコーヒーだが、本当に売っているのは空間。空間といっても感情を動かす空間でないと価値は低い。コーヒーを売っているという考えではなく、そして顧客もコーヒーを飲みに寄っているという感覚は乏しい。

従来の喫茶店も同じ位置づけであったはずだが、明確ではなく曖昧だった。「店主の部屋」みたいな感じの店が多かったように思う。スターバックスの成功は思い切って”人間の本心”にシフトしたことにある。「第三の部屋」と書いたツールは店内をくまなく探し回っても一切ない。顧客が違う何かとして空気と体験から感じ取るものであって、言葉ではなく、その場、働く人、空間に具現化されている。本心に触れるには触れる作法があるのだ。競争優位に立つ価値ある作法だ。

ウィキヘディアに書き込まれた店舗の特徴を読むと、スターバックスのコンセプト
が具現化されている様子がほぼ伺える。

■スターバックス 店舗の特長

店舗の特長

◎インテリア
ソファ、落ち着いた照明など長居したくなるようなインテリア。特にシンボリックなソファは人気で、どこで売っているのか店に問い合わせる人も多い。

◎通りに面したオープンテラス

◎店内全面禁煙(テラスは喫煙可、但し店舗によっては不可の場合もある)

フレンドリーな接客

積極的に取り入れられているこれらの方針は、欧米ではスターバックス以前にも比較的広く見られたものだが、日本進出のときにも、提携したサザビー(SAZABY) によってほぼそのまま導入された。いずれも、その当時の日本の喫茶店と一線を画した目新しいものであったため、日本ではスターバックスの特徴として挙げられ「おしゃれ」と評価されているが、特別なものではない。特にタリーズコーヒーやシアトルズベストコーヒーなど他のシアトル系コーヒー店や、世界各国で後続した類似のコーヒー店にも共通して見られる。

評価でユニークなのは都会度をはかる基準になっている点だ。インターネット配信番組「イグザンプラー」のコーナー"日本地域査定"で都会度をはかる基準として、該当地域内にスターバックスコーヒーの店舗が何軒あるかを示した"スタバ数"というものが用いられた。沖縄県北谷町には4店舗が出店している。都市部以外での複数店舗は珍しいが、同町には米軍関係施設やアメリカンビレッジがあることが理由だ。

2010年11月現在、日本国内では鳥取県・島根県以外の45都道府県に出店している。

米国の店舗にはAT&Tインターネットサービシスの公衆無線LANアクセスポイント
が設置されており、AT&Tユーザ以外でもWi-Fiが無料で利用出来る。日本でも2009年12月から翌12月の間にNTTブロードバンドプラットフォームと提携し大都市圏の店舗から全国の店舗にアクセスポイントの設置をした。NTT東日本のフレッツ・スポットとNTTドコモのMzone、ソフトバンクWi-Fiスポットの公衆無線LANサービスが利用できるようになった。

また米国では米国アップル社と音楽配信サービスで提携しており、米国の店舗にiPhoneやiPod touchを持ち込むと、自動的にWi-Fiネットワークに接続して、iTunes Music Storeを無料で利用できる。店内で流れている楽曲のチェックや購入ができる“Now Playing”サービスを展開している。

ダイニングエリアのコンセントは、ノートブックパソコンの利用や携帯電話の充電用に開放されている。

このような特長は見た目にも明らかだ。難しいオペレーションがあるわけでもない。それでも圧倒的に競争優位のポジションを獲得し、価格に左右されないオンリーワンの状態を獲得している。

ドトールも業態を変えて追随したが成功とは言い難い状態で、逆にスターバックスに訴訟される始末だ。シアトルズベストコーヒーも撤退に近い状態になり、タリーズコーヒーもいまひとつ。スターバックスを越える店づくりは決して難しいことではないと思えるのに、なぜそうしないのかという疑問が自分のなかから消えなかった。

スターバックスのようにすることはできる。それなのになぜ並び越えるできないのか。そこから見えてくるのは、スターバックスのコンセプトを羅針盤にして揺るがない姿と、その前に立っている合理的な愚か者の姿だ。これがオンリーワンを実現する核心の話だ。

スターバックスがコンセプトを貫くために取っている「肉を斬らせて骨を斬る戦い
方」そのバックボーンにある禅に通じる思想にはさらに驚くしかない。「合理・非合理いかなる結論にもせよ、人がそれに達したものをもって突進すること」を説いた禅の教えをそのまま実行しているように思えるからだ。

スターバックスは、どのようにして「第三の場所」というコンセプトを実現したのか?これに迫ることが競争優位のポジションを獲得した謎を解く鍵だ。実現するには「第三の場所」を実現する要因を見つけて実行するしかない。だから実現の障害になる要因は徹底して排除しない限り実現できない。現実には「あちら立てればこちらが立たず」ということが相次いで起こるはずだ。10人いれば100のコミュニケーションが生じるように、決め手となる要因が増えるほど複雑になり、見落としてしまいがちになり、判断は難しくなる。チームワークを司る強力なリーダーシップがなければ空中分解は必至だ。

実現には「因果関係」を正しく結ぶことがとても重要になる。少しでも阻害要因が入り込んでくると関係性は混乱して台無しになる。「因果関係」を正しく結んだ上で、ひとつひとつの要因を正しく機能させる必要がある。全体をまとめあげなければいけないので、リーダーシップとコンセプトが羅針盤と船長の関係で力を発揮する。迷ったときには「コンセプト」に戻ればいいのだ。そのおかげで航海で進路が見えなくなっても、進むことができる。

ではほぼ5年間毎日顧客として利用した体験を元に「ストーリーとしての競争戦略」の力を借りながら、スターバックスの謎解きを進めよう。ざっと思いつくだけでもこれだけのことが浮かぶ。

【店舗の雰囲気】
なぜ、大きなソファがあるのか ?
なぜ、日本上陸当初、しおりをサービスしたのか?
なぜ、顧客は高くてもいいと思うのか?
なぜ、間接照明なのか?
なぜ、ドトールより店舗面積あたりの席数が少ないのか?

【出店と立地】
なぜ、ドトールのように出店しないのか?
なぜ、高いのか?
なぜ、直営なのか?

【オペレーション形態】
なぜ、待たせて平気なのか?
なぜ、紙のカップを使っているのか?

【スタッフ】
なぜ、スタッフの態度はそうなのか?

【メニュー】
なぜ、マニアックなメニューを前面に出しているのか?
なぜ、食事に力を入れないのか?
なぜ、カスタマイズするのか?

これら「なぜ?」の集積にスターバックスが、競争相手をあきらめさせ、顧客をあ
きらめさせて、オンリーワンの状態に近い競争優位のポジションに立った理由がある。「長期継続利益」を獲得できる状態にした秘密がある。